■岐阜を訪ねる:うだつの上がる屋根神さま! <前編>

 最近岐阜通いが続いている。岐阜市に始まって羽島、大垣と歩いてきたが、どこも魅力的な屋根神さまとの出合いにあふれていた。そもそも屋根神さまといいながら屋根にある社が少ない名古屋市内と違って岐阜県内の町にまつられているものはそのほとんどが軒下や建物の一階の屋根上にある、文字通りの屋根神さまを見ることができる。ただ毎月1、15日に紫幕や提灯、供え物などで飾り付けを行なう「名古屋式」の月次祭は行なっていないようだが、それでも年間の行事を通して町内や地域の人々との結びつきを守る媒介として大切に守られているようだ。

 さて、今回の旅は岐阜県美濃市。美濃といえば「うだつ」と和紙が有名だが、じつは屋根神さまが多くまつられている町として筆者は以前から注目していた。5年ほど前の話だが美濃を訪れたことがある。そのときに龍の背骨のような見事な曲線美を見せるうだつもさることながら、大切にまつられている神さまに目が釘付けとなった。しかし当時はまだ名古屋市内の屋根神さまを中心に撮影していたので、岐阜の神さまに関してはそれほど関心はなかった。しかし頭の中のハードディスクがしっかりと記憶していたので、岐阜通いの流れのひとつに加えてみようと思ったのだ。

 さて、とはいうものの社殿の写真を撮るだけでは芸がないということで、岐阜市から郡上八幡行きのバスを降りてすぐ市内の観光案内所を訪ね、屋根神さまについて所在地や祭神をはじめとする資料はないかを尋ねてみた。が、美濃市はうだつと和紙の町。屋根にまつられている神さまについて触れた案内パンフレットのようなものはなく、案内所の方も当惑された表情だった。「神さまについてねえ、ちょっと待ってね、町内会長さんに聞いてあげるから」とほうぼうに電話をかけて聞いて下さった。そのかいあってか、まずは所在地をつかむことができた。それを町並散策の絵地図に落とし込む。赤ペンでチェックを入れた絵地図を見ると神さま所在地は町の中心部にかたまって存在しているのが分かる。歩きの旅にはちょうどよい。さらに「加冶屋町の『柴竹呉服店』さんならいろいろ詳しい方だから、そこで聞いてみたら」と場所を教えて下さった。

 昼食をとり早速撮影を開始する。祭礼日ではないのでどこも扉の閉まったままの社殿を周囲の風景を入れながら撮るのだが、さすがにうだつの上がる町。古い町並の中ではうだつのすぐ横に社殿が設置されているケースが多く、たいへん絵になる。当日は空気が澄んでおり、また高い建物がないのでうだつの上がる旧家が山々の背景と相まって、名古屋では絶対に味わうことのできない光景をつくり出している。屋根神さまは町の文化としてとらえてきたけど、岐阜を旅しながら自然が近くに感じられる雰囲気もまた一興とひとりほくそ笑んだ。

 さて、当日に筆者が確認した屋根神さま(当地では秋葉さまと呼ばれている)は、13社。そのうち大半を屋根に確認することができた。祭神は前述したように秋葉神社が基本だが、町内によっては津島神社や伊勢神宮、氏神である八幡神社の札を入れているという。なぜ秋葉神社がまつられるようになったのか。はっきりした理由を調べたわけではないが、どうも立派なうだつの多さに関係するようだ。美濃のうだつは江戸時代におこった大火の教訓として火災を防ぐ知恵から屋根の両端に作り上げた。しかしうだつというのは自分の家を守るだけのものでしかない。周囲で大火が発生すれば、木造家屋が棟続きに建てられていた当時はなにかしらの被害を被ることは避けられない。そこで地域(町内)の安全を祈願するために火伏の秋葉信仰が普及したと考えられる。立派な社殿をまつる常盤町の鈴木家で聞いてみた。
 
 Q:この神さまはなにをまつっていらっしゃるのですか?
鈴木家:『秋葉さまといって、防火の神さまで、家ができたときからあるんですけどね。うちのものじゃなくて町内のものです。ひとつの町内に2つくらいずつあるんですけど、家が並んでいて祠をたてる場所がなくてたまたまうちにあるんですけどね』

Q:いま扉が閉まっていますけど開けてお祭りをすることはあるのですか?
鈴木家:『7月15日に「夜まつり」を行ないます。そのときに扉を開けて飾ってお物も置いて、そのとき神主さんに来ていただいてお勤め(お祓い)をしてもらいます。赤い提灯もかけます。もとは子供のための夜まつりなんですが、町内ごとにまつってある神さまのまつりなので、町内ごとに違う日にちに転々とあるんですね。この通りには三つの町内があり、もとは違った日にちでやっていたのですが、いまでは一緒にやるようになりました。夕方から夜にかけては歩行者天国のようになります。6月30日に行なわれる茅の輪くぐりから8月1日の花火までの間のひと月間、各町内で夜まつりが行なわれます。もちまきや相撲大会、ゲームなどが行なわれます』

 話を聞くと美濃の屋根神さまも名古屋同様、祠をまつる地所がなかったために屋根の上にまつったようだ。しかもこちらでは火伏というはっきりとした目的があるので、名古屋の屋根神さまのように津島か秋葉かという祭神起源について不透明ではないようだ。
 
※美濃市内屋根神さま所在一覧(筆者確認分)
1、殿町=田中家住宅。西向、軒下。うだつと丸型ポストに囲まれた神さま。
2、殿町=東向き。台上、箱型社殿。木製の箱型社殿で扉は閉まっている。
3、永生町=東向き、神域内。域内には秋葉常夜灯が設置されている。
4、本住町=松久家。南向き、屋根。
5、泉町=大石家。南向き、屋根。祭神には秋葉神社と伊勢神宮、津島神社、八幡神社の4社をまつる。7月10日の町内の祭、8月1日の川まつりの際に飾り付けを行なうという。
6、常盤町=森田家。東向き、台上。屋敷の東側に小さな神域を設けており、そこのコンクリート台上にまつられている。
7、常盤町=鈴木家。南向き、屋根。祭神は秋葉神社。上記参照。
8、相生町=小坂家。北向き、屋根。国の重要文化財である小坂家は造り酒屋の「小坂酒造場」。社殿は珍しく北向きである。秋葉神社をまつる。
9、魚屋町。東向き、屋根。岡家の南隣にまつられている。
10、俵町=林自転車店。北向き、屋根。構造上やむを得ず北向きにしているのだろうか。
11、加冶屋町=柴竹呉服店。南向き、屋根。祭神は秋葉神社と氏神の八幡神社。
12、米屋町=友禅屋クリーニング。西向き。軒下。
13、広岡町。西向き。旧美濃駅から近い。