■お気に入りの道具:プラチナ社製 「PressMan」

 屋根神さまの撮影に向かうとき、必ず持っていくものがある。写真機材はもちろんだが、おまつりを行なう地域の人々や屋根神さまと関わりのある人々から聞いた話をメモするための道具、つまり筆記用具は必ず携行する。小学生時代、担任の先生から「どこかに行くときには必ず筆記用具を持っていくこと」と口やかましくいわれていた。当時はその理由も分からず、うっとうしく感じていたものだが、今となってその口やかましさが自分自身に染み付いたクセとなっていることを大変ありがたく感じている。

 屋根神さまの記録を行なうようになって筆者は、まず着ていく服に気をつけるようになった。といってもお洒落をしていこうなんて気持ちはさらさらなく、とにかく右胸にポケットのある服にこだわっている。理由は胸ポケットにメモ帳とシャープペンシル(以下シャープ。ときにはボールペンとダブルで)を入れておくためである。これは筆者が業界紙記者をしていた経験やだれかから教わったからというよりも、自然と身についたものだ。カバンの中に丁寧に筆箱なんかにペンを入れていてもとっさのときにはなかなか出ないもの。何かあった際にはすぐにペンを取り出せるよう、常に臨戦体制にしておく必要がある。

 普段、筆者は胸に1〜2本、カバンを持っていればその中に数本忍ばせておく。撮影途中のカメラの故障に備えてサブ機を持つように、シャープが壊れては正確な記録に支障が出てしまう。しかも筆者愛用のシャープは使い込むほど味が出るどころかガタがくるものなので、一本では心もとない。最近では胸ポケット用、カバン用、カメラバック用とスチュエーションによって持っていくものが違うので、それぞれにシャープを入れている。

 はじめての屋根神さま取材で地域の世話役のような方から屋根神さまの年中行事をはじめ縁起などを聞くことができても、その内容を記憶ではなく記録にとどめなくては意味がない。さらにメモ帳は帰宅すれば必ず目を通すようにしているので、「撮った写真を送って」などといわれたときにもその場でメモしておけば忘れることはない。どこのウマの骨とも分からない人間が未知の世界で人と知り合おうとするならば、当たり前だが細かい配慮が必要である。それがひいては貴重な人脈形成に役立つのだと思う。

 じつは筆者は記憶力がいい方だと思っていたが、時間の経過ともに鮮明な記憶も色あせてくるのは凡人の証拠。しかも数字など勘違いしやすいものは絶対そのときに書いておかなくては正確な数字を忘れてしまう(ときには書いていても間違ったりするのだが...)。

 さて肝心の筆記具だが、筆者はここ6年ほどシャープに関しては一種類をのぞいて使ったことがない。その一種類とはプラチナ万年筆社製「PressMan」 (プレスマン)。名前からすれば報道記者用(もとは速記用らしい)のシャープということになろう。形状はプラスティックでお世辞にも高級品とはいえないどころか一見すると安物に見えてしまう。しかもノック部のキャップがゆるいのでちょっとした不注意ですぐなくなってしまう。我が家にはキャップなしで消しゴムの露出した情けない姿の「PressMan」がそこかしこに転がっている。

 しかし欠点だけをあげつらっては愛用筆記具として紹介する意味がない。というより欠点を覆い隠すくらいの長所、つまり筆者が6年間使い続けているだけの価値がそこにはあるのだ。まず芯は、太さ0.9mmで濃さ2Bを標準使用する。これが何を意味するかといえば、メモ帳を見ずに話を聞きながら書いていても2Bだとちゃんと紙に写ってくれる。字がきれいか否かは別として後で確認できるほどであれば問題はないからだ。しかも話を聞きながらす早くシャープを走らせるときに限って芯が折れてしまいそうなものだが、 0.9mmはよほど力を入れない限り折れることはない。筆者は指でシャープをクルクル回す癖があり、そのせいでよく地面に落とすことがあるが、拾い上げたときに折れていることは意外と少ない。ちなみにプラチナ社からはPressMan専用の替え芯が売られているが、芯の種類はひとつだけ。もちろん 0.9mmの2Bだ。

 PressManとの出合いは、以前某新聞社で働いていたときのこと。そこではまだ「生原稿」(原稿用紙)を使っていた。そのため筆者も会社から支給されたシャープ(一般的な0.5mmのもの)を使っていたが、筆圧が高いためか芯がすぐ折れてしまう。そこで有名な「Dr.Grip」を使い始めたのだが、最初のうちはグリップ部のゴムが指先に馴染んで使いやすかった。が、そのうちどういうわけか指が疲れるようになった。しかも右手中指には大きなペンダコまでできてしまい、大変みっともない。ちょうどそのころだろう、ある雑誌を見ていたら、有名ライターによる「PressMan」を紹介する記事が目にとまった。早速試してみたところ、以前のように力を入れなくても濃い字が書けるではないか! とそれ以来の仲である。

 ちなみに先ほども触れたが、我が家にはかなりの数の「PressMan」が分散している。恐らくすべて集めたら10数本になるのではないだろうか。筆者にとってはカメラ機材よりも譲れない愛用筆記具となってしまった、というわけである。いまでは大きな文具店に行かなくては買えないようですが。