「寒風吹き荒れるなか、那古野神社の宮司さんとともに屋根神巡り」
<西区幅下、中区丸の内>

 2005年を迎えて早一週間。元旦に屋根神さまを撮りに行き、今日もこうして写真を撮っている。今年一年、屋根神さまの写真を精力的に撮れますように、と屋根の上の神さまに向かって柏手を打つ。

 毎年1月8日、旧六句町(現西区幅下)の屋根神さまでは新年のお払い「氏神様祭典」が行なわれる。筆者にとっては今年で4回目である正月の風物詩に今回も参加して写真を撮らせていただいた。

 当日は寒風吹き荒れるなか祭事が執行された。例年、午前10時から開始されるが今年は少し遅れて10時半スタート。ニ体並んだ屋根神さまの前には「御神燈」と書かれた大提灯と「献燈」提灯2つ、「秋葉神社」と書かれた提灯がそれぞれ2つ吊り下げられている。また両社殿ともにそれぞれの神紋が染め抜かれた紫幕が張られ、本日の主役である向かって左側の天王社の扉が開けられた。

 10時半少し前に那古野(なごや)神社の宮地宮司が到着した。神主の装束に着替えを済ませたあと町内の人々が集まる社殿前に登場する。当日の参加人数は25人ほど。神事が始まる前までは準備風景などを撮っていたのだが、気温が低く寒風が容赦なくビルの間を通り過ぎるので、カメラを持つ手が凍りつく。社殿の前ではかがり火を焚いているので、凍てついた手を氷を溶かすかのごとく燃え盛る火にかざす。すると血管が急に膨張し血液が一気に流れ出すのを感じた。

 神事は宮地宮司による祝詞の読み上げと、町内有志が玉ぐしを捧げ、さらに宮司より今年一年の町内繁栄祈願で一通りが終わる。時間にして20分ほど。

 その後、宮地宮司と少しお話させていただくと、「今日はこのあと午後からもう一軒お祓いがあるんだけど、もしよかったら来てみますか? そこの町内会長さんが那古野神社の総代さんをやられていますから」と急きょ中区丸の内の祭事を見せていただくことになった。

 名古屋の屋根神さまの祭神といえば、熱田神宮、秋葉神社、津島神社の三社が一般的だが、地域によって祭神が少しずつ違うケースもある。那古野神社の氏子地域である名古屋市中区から西区にかけては同神社が天王社であることから津島神社の代わりとして祭神の一席を任されている。筆者が元旦に訪れた西区那古野の五條橋の屋根神さまも同じである。以前、宮地宮司から聞いた話によると、一昔前までは屋根神さまも多く残っていたので旧六句町のようにお祓いのために何ケ所か訪れていたようだが、今では旧六句町や西区樋の口町(1月2日)をはじめ数社を数えのみ。そのうちの一社にこれから訪れる旧泉町(現中区丸内)の「いづみ社」がある。

 「いづみ社」は筆者にとって当日が初めての祭事である。そういう場合は始まる30分前には現地に到着して準備の最中にいろいろな情報を得るのがベストだ。午後1時に現地に到着して待っていると社殿がまつられている場所の建物から人が出てきた。聞いてみると今から神事の準備を始めるとのこと。「宮地宮司からお聞きしたのですが」と写真を撮りたいむねを説明すると「いいですよ。私は那古野神社さんで総代をやっています」と返ってきた。期待に胸がふくらむ瞬間だ。

 じつは「那古野神社」の総代さんこと大西さんは、京町通(五條橋から東に向かう筋)の「大西人形本店」の社長さん。その大西さんから「いづみ社」についてあれこれ聞いたところ、今では地上に降りてしまっている社は以前は京町通沿いの民家の屋根にまつられていたという。これが何を隠そう山地英樹さんの写真集「名古屋の屋根神さま」の表紙を飾った屋根神さまである。社殿脇に「平成7年正月」と書かれた札がたっているがちょうど10年前、屋根から現位置に移されたのだ。

 社殿は大西人形本店のあるビルの入り口にまつられているのだが、本来ならば花壇を作ろうとしていた時に移設話が出たことでまつるようになったという。社殿は結婚式場で使われていた神殿を使用し、中にはかつて空襲で焼け残った那古野神社の御神木がお札とともに奉納されている。祭神は那古野神社を中心に秋葉神社と伊勢神宮で以前は白山社をまつっていたというが、伊勢神宮に切り替わったという。

 さて再び宮地宮司も登場し、旧泉町の町内の人々もビルの一階の駐車スペースに介した。参加人数は15人ほど。旧六句町と同じように祝詞に続いて町の代表者が神前に玉ぐしを捧げる。そして宮地宮司の町内繁栄祈願で幕を閉じた。

 じつは神事が始まる前にちょっとした、いや筆者にとっては重大な事件が起こった。現場に到着し撮影の準備でカメラをバックから取り出そうとした刹那、なんとカメラボディにしっかりと取り付けられていたはずのカメラがコンクリートの地面に落下し、鈍い音を上げた。すぐにひろいあげてみるとピントリングが妙に重くなっている。ボディに取り付けオートフォーカスを試してみてもレンズの中に組み込まれた超音波モーターがのろのろとしか動かない。超音波がこれではカメではないかと怒っても時すでに遅しだ。仕方なく修理センターに搬送し、サブ機を使って撮影を行なった。ちなみにこのサブ機、持つところが金属なので素手でもっているとかなり冷たい。さらに冷たい風がここでも容赦なく吹き荒れる。屋根神さまを撮るということはあらゆるアクシデントやバッドコンディションに耐えるということを身をもって知ることとなった。