休職してからは僕がなるべく家事をするようにしている。
買い物もそう。

お米が切れそうだったので、近所のお米屋さんに買いに行った。
お店に入り「半々で」と伝えると店番のお母さんは「はーい、いつものね」とボールを持って倉庫に入っていく。
地元産の米五キロを白米と玄米半々にしてもらう。
少々手間で申し訳ないと思いながら、お母さんと息子さんの笑顔についつい甘えている。

袋詰めを待っていると入り口の戸がガラッと開いた。
入ってきたのは制服姿のタクシードライバー。
一見して七十過ぎの老運転手だった。
お店ではタバコも扱っている。
タバコだと思い僕は「時間かかるからお先にどうぞ」と声をかけた。
「いや、見さしてもらいたいんだわ」と老運転手氏。
お母さんも「よかったら欲しいの取ってって」というが彼の視線は米を袋詰めする機械にじっと注がれていた。

「俺よぅ、堀田の下町に育ったもんでさぁ。昔はこんな米屋があったなと思ってなか入ったんだわ。車置きっぱなしにしてよぅ。へぇーまだあるんだな」

僕の顔を見ながら懐かしそうに話してきた。

「最近は農家も、よぉ天日干しをしんもんでよう...」

僕の顔を見ながら話してくるんだけど、ヤニ臭さと面倒臭いおっさんだなという思いで聞き流していた。

袋詰めが出来上がったので、白米と玄米の袋二つを受け取った。
じっと観察していた老運転手氏はなぜか興奮気味だった。
あまりにも興奮していたので米を置く台にスネと打った。

「打った、打った」

打った部分をさすりながら「これ玄米?」と尋ねる。

「そうです、いつもこうやって買うんですよ」

白米だけでなく玄米も買っていく僕に満面の笑みで手を差し出してきた。

「えっ?」

不思議な顔をした僕もつられて右手を差し出す。
力一杯ぎゅっと握ってきた。
老運転手とはいえ現役で働くひとの手だった。
端で見ていたお母さんは突然のことに驚きながら、次の瞬間、声をあげて大笑いした。

あいさつしてお店を出た。
自転車に乗って帰ろうとして店内を見るとお母さんと熱心に話し込む老運転手氏の姿があった。
車は外に止まったまま。
近くに交番があるのに大丈夫かなと心配したけど、老運転手にとっては偶然通りかかった米屋さんの存在に懐かしさを通り越して強い衝撃を受けたようだった。
僕はこのお店の常連でよかったと心のなかでつぶやいた。