手元にある「式内社調査報告」と「日本古典全集 延喜式」によれば、全国の式内社数のうち上位は下記のようになるそうだ。

一位・大和国286座(社数216社)
二位・伊勢国253座(同232社)
三位・出雲国187座(同187社)
四位・近江国155座(同142社)
五位・山城国122座(同90社)
六位・尾張国121座(同121社)

座数はまつられている祭神の数を、社数は純粋に神社の数を表している。
座数をもとにすれば大和国が一番多く、神社の数でいえば伊勢国が最も多い。

名古屋市に住む僕にとって、先に列挙した上位六カ国のうち、自分の住む尾張国をのぞいて、JRなどの交通機関や名古屋からの自走という手段を使いなんとか行ける(というか行けなくはなない)のは、大和(奈良県)、伊勢(三重県)、近江(滋賀県)、山城(京都府)である。
実際に伊勢国では桑名市や四日市市、鈴鹿市の一部までは朝早く名古屋を出発して現地に赴いていた。

2014年に愛車であるFATBIKE(BIKEといっても自転車です)を手に入れた。
最初はただ目的もなく遊んでいたのだけど偶然、岡谷公二氏の著書との出会いをきっかけとして延喜式に掲載されている式内社を巡り始めたのが翌2015年。
以来、「式内社調査報告」をテキストに、仕事の休日を利用して多くの神社を訪れた。
尾張国、伊勢国、志摩国は終了。
近江国は残すところ数社となり、大和国は少しずつ回り始めている。

しかし上位にランキングされたなかで難易度が高い唯一の国が出雲国。
まず遠い。
試しにグーグルマップで我が家から近い熱田神宮から出雲大社の距離を検索すると482km。
車を持たない僕は自ずと交通機関を利用することになる。
熱田神宮最寄りの熱田駅から出雲大社最寄りの出雲市駅までを路線検索すると時間は約八時間、料金は新幹線を利用して片道約九千円。
これまでの経験から一日に十社程度の神社を回ったとして二十回は先に示した距離を往復しなくてはいけないのだ。
観光気分で回るには荷が重い。

再び手元の延喜式に目を向けると、巻第九の初めには全式内社の座数について、「天神地祇惣三千一百三十二座。社二千八百六十一処」と記されている。
神社の数だけでもざっと三千社近く。
古くからの神社なので所在が分からなくなったり廃絶したりする神社がある一方で、論社といって何らかの理由で同じ神社の由来や言い伝えを持つ神社が複数存在することもあるから、三千社、もしくはそれ以上を覚悟しなくてはいけないだろう。

四十路を迎え人生の後半戦に何をやろうかと考えたとき、式内社を大好きな自転車で回ることを思いついた。
生涯に渡って訪ねることを考えたとき、式内社が数多く存在する近畿一円に足を向けるにあたって比較的近い名古屋に住むことはかなりの利点だ。
だけど突出して多くの古社が存在する出雲国だけは畿内とは違ったアプローチでないと僕の一生涯のうちに回れなくなる可能性が大きい。

「いっそのこと出雲を訪ねるのではなく出雲に住みながら回れないだろうか」

そう、松江に住んだ作家・小泉八雲ことラフカディオ・ハーンのように。
冗談程度に考えていたけど、交通手段に頼るのが難しい以上、「移住」や「短期滞在」という選択肢が現実味を帯びてくる。
普通には考えつかないことをやってみることも、人生後半戦を有意義にするためのスタートとして面白そうだ。

これは四十五歳になっても少年のように、いや、いまだ大人になりきれないおじさんの物語である。