以前にも書いたような気がするが、松江に到着した日の夕方、あらかじめ調べておいた酒蔵で一升瓶を一本買い、次に米屋さんで島根県産のお米五キロを買った。
用事は済んだけどそのまま家に帰るのもなんだからと大橋川沿いにある小さな公園のベンチに腰を下ろした。

そこそこ人生経験を積んだ四十台半ばとはいっても名古屋以外の土地で暮らすことに対して緊張や不安がないわけではない。
これからどうなるんだろう、ひと月無事に過ごせればいいが...川の流れを眺めながら、これから始まる生活に思いをはせた。

すると近くにいた自転車のおじいさんが声をかけてきた。
FATBIKEの大きく太いタイヤが目につき話しかけてきたようだ。
僕が名古屋から来て今日松江に到着したこと、ひと月限定で松江に滞在しながら出雲国の神社を巡ることを話した。

「ひと月でね。でも大変だと思うよ。坂も多いしね。松江のような町なら道路も整備されているけど、町から離れると道も狭くなるし。とにかく気をつけて行ってきなさい」

おじいさんの忠告によると出雲国は山、つまり登り坂が多いとのことだ。
もちろん旅を終えたいま振り返っても地元のおじいさんの言葉通り、坂道にどれだけしんどい思いをさせられただろう。
このブログでも古社巡礼といいながら神社に対する思い以上に、登り坂に対する恨み節を多く書き連ねてはいまいかと思ってしまうくらいだ。
ただ無知とは怖いもので、そのときは出雲の神社を二週間ほどで終わらせて石見に行こうと真剣に考えていた。
よほど現実を知らなかったというしかない。

出雲国の道のりが思った以上に厳しいことは日を追うごとに体に刻み込まれていった。
宍道湖北岸から山塊を越えて日本海側へ。
ペダルを漕げるところは漕ぎ、勾配がきつくなれば自転車から降りて押して歩く、その繰り返し。
認識の甘さ、確かにそうだ。
一方、自転車の楽しさや爽快感も同時に味わうことになる。
きつい登り坂を越えればその分、長い下り坂が待っている。
束の間のご褒美。
サドルから腰を浮かしクランクを地面と平行にしてバランスを崩さないように力強くハンドルのグリップを握る。
前から吹く風が冷たすぎて風邪を引きそう、というのは大げさだけど、それまでに流れた汗が一気に乾いてしまうようだった。

御津神社の境内は山塊から日本海へ抜ける途中の山のなかに鎮座していた。
下り坂の快感に浸ってしまい危うく見過ごすところだった。
急ブレーキをかけて止まり鳥居の前に戻った。
所在地だけを見れば木々が繁茂する山中に鎮座する神社だが、御津という社名と北側、つまり海を眺めるように鎮座するその位置から海に関係する神社であることが分かる。
入口に立っていた案内板によると当社は何度かの変遷をへて現在地に定まったという。

鳥居をくぐり石段を上がり境内へ。
まず目についたのが向かって左手の土俵と入口近くに立つクスノキとケヤキ。
ひと気のない境内を拝殿に向かって歩く。
入口の鳥居から69歩、まずは参拝。
拝殿は少し扉が開いていて、なかをのぞくまでもなく奥に電灯がついているのが見えた。
防犯目的だろうか。

御津神社が鎮座するのは出雲市三津町。
社名も地名も「みつ」と読む。
ちなみに社名と同じ御津という地名が佐太神社から近い鹿島町の日本海側にある。
僕は御津神社があるのはこの御津だと勘違いをしていた。
ちなみに御津の名物は「さばの塩辛」
塩辛なんて食べたこともなかったのに、これをピザに載せて焼くとまさに和製アンチョビ、さすが島根の海の幸! 

御津神社からまったく関係ない場所の宣伝をしてしまった...