出雲大社の境内。
一般の参拝者である僕が瑞垣のなかに入ってお参りすることはできないので、正面の門から本殿をのぞき見るしかない。

「ようやくやって来ました」

手を合わせながら心のなかであいさつする。

祭神である大国主命は別名の多い神である。

「大物主神」「大穴持命」「大己貴命」「葦原醜男」「八千戈神」「大国玉神」「顕国玉神」

なかでも「大穴持命」は出雲国を旅すると社名に冠する神社があるくらい、大国主命よりもポピュラーな神名だと思う。
個人的に「大国主命」という、国を作った主というような下から仰ぎ見ないと恐れ多い名前よりも「オオナムヂ」(「大穴持命」「大己貴命」)という名前が好きである。
日本語っぽくない語感にミステリアスさもあるが、それでいて何となく親しみやすい感じを受ける。
水木しげるの「水木しげるの古代出雲」に出てくるコミカルな姿に引っ張られているのかもしれない(同書では「オオクニヌシ」と書かれている)。

ちなみに僕自身、結婚式を妻の実家がある岐阜県内の某三輪神社で挙げた。
この神社では祭神である大国主命を「ダイコクさん」と呼んでいたがもちろん「オオナムジ」でもあり、僕たちが結婚の誓いを立てた神さまなのだ。
二人では大和の大神神社にも参っているし、松江「プチ移住」期間中には古社巡礼とは別に出雲大社を参拝している。
大国主命=大物主命=大穴持命ラインは出雲と大和のほかにも全国にまつられているだろうから、僕たち夫婦は出雲を筆頭とする全国の「オオナムジ」神に守られている(はず)である。

余計な話をしてしまったが、「式内社調査報告」を見ていると不思議なことに気づいた。
「延喜式」上、大和、伊勢に続いて神社数が多い出雲国だが、名神大社の数は二社しかない。
そのうち意宇郡では熊野坐神社が筆頭に挙げられているので出雲郡では当然杵築大社かと思いきや筆頭は「大穴持神社」となっている。
「出雲国風土記」では「杵築の大社」が筆頭で「大穴持神社」自体が見られない。
風土記完成から延喜式編纂までの間に新設されたのだろうか、名神大社ではないけど筆頭ということは杵築大社よりも格上ということなのだろうか、という疑問がわく。
でも基本的には「大穴持神社」と「杵築大社」では先に挙げたように祭神名が違うというだけで同じとされる神をまつっているので、並立する意味がないと思うのだが。

この点に関して「日本の神々」では杵築大社の元の祭神が素戔嗚尊ではなかったかと述べている。
「出雲国風土記」、意宇郡の条で出雲郡は朝鮮半島の新羅の岬から引っ張ってきたとされる。
「韓國」という名を冠する神社が見られるのも出雲国の特長だけど、祭神が素戔嗚尊やその御子である五十猛命であることを考えれば、あながち可能性がないともいえない。