コロナ禍の特別給付金を使って自転車のブレーキを交換することにした。
馴染みの自転車屋はコロナの影響で営業形態を変更、事前にネットで予約してから入店という完全予約制となった。

開店の午前十時に予約しておいたので、他のお客もいないなかスタッフにブレーキ交換の件についてこちらの意図をだれにも邪魔されずに伝えることができた。
新人さんということもあり見積もりに時間はかかったけど、一時間くらいで帰ることができた。
現在ピット作業が混み合っているので自転車持ち込みはちょうどひと月後、ブレーキ交換後の納車はさらに一週間後となった。

見積もりを作ってもらった時点でも、これまでのブレーキは問題なく使うことができたのでひと月後を楽しみに古社巡礼に出かけた。
そして先週の月曜日、自転車のフレームに取りつけてあったフレームバッグ類を外しお店に持ち込んだ。
転倒で曲がってしまったブレーキレバーも新しいものとなり、五年分の汚れがこびりついたディスクローターもまっさらになると思うと嬉しい。

そして納車当日の日曜日。
持ち込むときに外したフレームバッグをカバンのなかに詰めた。
自転車のフレームにくっついているときにはなんとも思わなかったけど、いざカバンに入れて持ち上げると結構な重さだ。
なかにはぶっといチェーンキーやライトや工具類が入っている。
自転車を快適に乗るために必要な必需品ばかりだ。

午前十時を過ぎそろそろ出発、というときに携帯電話が鳴った。
出てみるとお店からだった。
納車の確認かなと思いきや、その若いスタッフは「ブレーキラインがいままでのものと互換性があると思っていたのですが、今朝付け替えてみたらダメでした。いまから発注かけるのであと二日ほどお時間もらえませんか」と謝りながらいった。

僕は出かける支度をしたばかりなので一瞬言葉を失った。
見積もりの時点ではブレーキラインは使えるといっていたはず。
まあそれはよいとしても見積もりからひと月がたち、しかも自転車を持ち込んでから一週間が経過している。
しかも納車当日に発覚したとなれば、一体、この間何をしていたのだろうか。
頭に来たけど、電話口で騒いでも納車の時間が早まるわけでなし、とりあえず二日後に行くことを確認して電話を切ったが釈然としない。

明日、仕事が終わってから取りに行く予定ではいる。
その際、長い時間がありながらなぜこういうことになったのか、周りには自転車の知識が豊富なベテランたちもいるだろう。
その先輩たちは新人の彼を放っておいたのだろうか。
自転車を受け取る際、今回の事態の原因を質してみたい。

それにしても、たった一週間のこととはいえ、自転車中心に回っていた生活が自転車がないというだけで途端に不便になった。
買い物も近所で済まさざるをえないし、冒険的に遠くの酒屋に日本酒を求めに行こうという気もなかった。
それに町に出て自転車に乗ったひとの姿を見ると、羨ましく思える。
かといってもう一台を買うことはモノを増やすことにつながるから避けたい。

自転車に乗りたい欲求は、自転車があると気づかないけどなくなるとふつふつと心にわき上がってくる。
酒を切らしたときに飲みたくなる気持ちや出先で手持ちの本を読みきってしまったもののほかに読む本がないときの状況に似ている。
完全に体が禁断症状を起こしている。
それと、部屋にあることが当たり前の自転車がない風景、日常と違う欠落した風景に対する不安感の増大もあるかもしれない。

とにかく早く我が家に戻ってきてほしい。